登場人物、ハロウィン前1〜2

登場人物

レオ　　：主人公、語り手、料理スキルが高い
マイク　：大学教授、友人
クリスティーナ：娘
ジェシカ：友人、クリスティーナのヨガの先生
トーカ　：ジェシカの友人
アリーナ：姪っ子

グロリア氏：教授友達

1 ハロウィーンの準備

ハロウィンの時期が近づいてきた頃。
ベランダの真ん中にぶら下げた植木鉢から伸びるカボチャの蔓のような紐は、丁寧な手入れを受けて青々と茂り、いかにもハロウィンの装飾のようにふるまっている。

先週くらいにマイクがこの美しい植木鉢の補強と電気ショック機能を点検してくれた。
そして、ハロウィーンの夜を盛り上げようと植木鉢に大きくて重いカボチャを植木鉢から伸びる紐へ吊り下げた。クリスティーナは持ち上げるのが大変だろうが、やはりハロウィーンはこうでないと。

そんなハロウィンの2日前の夜マイクからある提案をもらった。

「ハロウィンの夜、ジェシカたちにに仮装してもらうことにしたんだが、3人の子のハロウィンの衣装で何か特別な提案はないか」

ふと、前に見たホラー映画に出てきた人間の足がついた金属の箱が頭に浮かび、あることを思いついた。

2日後、スタジオには、口元だけが見えるフルラップレオタードを着た瀟洒な柔術家のジェシカと、いかにもな博士に扮したマイクがいた。
私を出迎えた彼は、ジェシカをマットに立たせた。まずジェシカの腰に革製のガードル（コルセットのような矯正器具）を巻き、二人がかりで彼女のウエストを締め上げた。

マイクがガードルを固定した後、体のたたみ方を伝える。するとジェシカは首を後ろに曲げて後頭部を背骨に密着させ、腕は胸骨に回して戻らないよう支える。
シームレスに体の上部が背中へと折り曲げられ、腰から上の上半身はでこぼこした球体へと変化した。

同時にマイクは球状の物体を取り出した。金属製で直径24cm、2つに分けられる球だ。
底面の中央の直径13cmの丸い穴がある。また球体の後部にある3cmくらいの小さな丸い穴、その裏側には金属筒が嵌め込まれているらしい。

マイクは球体を分離し、ジェシカの球体の上半身を金属の殻にはめ込み、口を開かせて球体の底側にある太い棒に口をはめ込ませ、球体が閉じられる。
これでジェシカは生命を感じられない金属の球体となった。

しかし、それだけでは終わりらない。
マイクはもう一枚の厚い黒のラテックスストッキングを取り出し、ジェシカの足を奥に届くまでしっかり履かせた。
ラテックスストッキングを強く引っ張り、股間、腰回りを通して金属球まで覆い隠し、球の頂点で固く結んだ。
マイクはパンストの結び目をホットメルト装置で溶かして滑らかにし、シワがないか確認をした。

……その後、下の小さな空気穴を開けたところ、ジェシカは咳き込むような叫び声をあげてしまった。
彼女の叫び声がトラブルに発展しないようにと、マイクは筒状の柔らかい猿ぐつわを穴に挿入し、叫び声を無理やり抑え込んだ。

さらにジェシカの美しいウエストを強調するために、マイクはもう一枚のガードルをつけて、協力して30cmのウエストに締め上げた。
しかももっと情熱的しようと、マイクはレースのついた白いストッキングとガーターもつけて、この時点でジェシカは上身は黒い球体になった。対照的な、細いウエストやくびれたヒップ、スラリと長い脚はむしろ媚びたようで不気味であった。
最後にマイクは、細い赤いハイヒールを取り出し履かせると、ジェシカは素直にモデルのような足のポーズをした。

そんなジェシカを逃がさないように、と細い腰に細い鎖を結ぶ。
マイクは彼女を地下室に運ぶと、ルームランナーのスイッチを入れ、腰に巻いた鎖をハンドルに固定して、スイッチを入れて、ジェシカにその上を歩き続けさせた。
真っ黒で無機質な球体から生えた艶めかしく装飾された足がルームランナーの上を優雅に踏み締めている。

マイク曰く。

「この素敵な物体をハロウィーンの夜までにもっと良く改造しなくては！」

2 トガ虫の展示

ジェシカの処理が終わり、

「可愛くて頑固なトーカはどこに行ったんだ」

とマイクに尋ねると、笑顔でここにいると言った。
周りを見渡しても気配がないので、ヒントを貰おうとトーカの居場所を聞いた。
マイクはまた笑いながらロッカーを開け、そこから重厚な木製のプレゼントボックスを取り出し、私の手に渡した。

「よく鑑賞しなよ」

その木箱は長さ50cm近く、質量30kgほどの大きなものだったが、外側に金属のピンがついているだけで、鍵はかかっていなかった。
ピンを引いてふたを開けると、直径わずか30cmほどの黒くて硬い、やや平たい球体で、虫の外骨のような模様がある。
そんな巨大虫のさなぎ、と思われるものが見えた。

箱から出して重いさなぎを手にしたとき、ふと、扁平な球形のさなぎの前面下部、縁の近くに昆虫のような足が8本対称に分布していることに気づいた。
これは、おそらく少女の細い指だろう。指はさなぎの内側から伸び、硬い殻に包まれている。人差し指から小指以外全てを密閉され動けない状態になっているのだ。
虫の足に見せかけたこれらの指は、怒っているのかあるいは何かを発散するように激しくくねらせている。

4対の足の中央には、3つの繊細な真鍮のバルブがあり、そのうち2つは固定されているが1つだけがわずかに開いていて、そこから熱風がゆっくりと吸気と排気を行なっている。

球体の前方には昆虫の触角のような伸縮性のある金属線がある。
マイクによると、これはトーカが前方の障害物を識別するためのもので、圧力によって触手が曲がると、殻内の電極から電気ショックが発生し、前方に障害物があることを警告するのだそうだ。
試しに触ってみると、感電した虫の足がキュッと縮んで、暴れ出す、なんだか痛そうだ。

……トーカが置かれていた状況を思い出す。マイクの方を見れば、私の考えなどお見通しとでも言うように、ハハハと楽しそうに笑っている。

「箱の中だと、常に電気ショックを受けているのでは？」「これは素晴らしい贈り物をするために必要な犠牲だ」

あっさり白状した。
この少し平らな虫の中に圧縮した三つ折りのトーカを封じ込めたので、この「虫」を「トガ虫」と呼んでいいのだと教えてくれた。

「……トーカは大丈夫なのか？」
「絶対に大丈夫だ、好きなだけ虫を飼えばいい」

トガ虫を入れたプレゼントボックスを家に持ち帰る。ベランダに目を通すと、クリスティーナが静かに過ごているのが見え、金色の夕日が射し込んでおり暖かそうだ。

箱からトガ虫を取り出して、テーブルの上に置いた。
私はさっきのマイクに驚いただけで、彼女のことをよく見ていなかった。
夕焼けの光の中で、私はその虫をよく見た。虫の外骨格の模様の平らな金属球は、厳しい表情をしており、足関節に見せかけた8本の指は、さなぎの両脇に静かに留まっている。

トーカに前進を命じると、彼女はたどたどしく、8本の指を偽装して歩いた。私はトーカの行く手に障害物を置き、数歩歩くと彼女がぶつかるようにしたのだ。
数歩進んだところで彼女の触手が障害物に触れ、偽装した虫の足がたちまち激しく震えた後、わずかに右に逸れて歩き続ける。
その光景は、子供の頃にアリをからかったことを思い出させ、トーカがアリになって、障害物を避けようと必死に歩いているのがとても面白く感じた。

もう一度、彼女の行く手に障害物を置くと、彼女が少し進んで障害物にぶつかると、激しく震えた後、右へと方向転換して進み始める。
そんなところで、トーカを覆うためするために大きな丸いカバーを持ってきた、これがちょっと大きすぎて、トーカは数歩歩かないと縁に触れられないのだ。

ふと、最近ここらへんでで剥製展をやっていることを思い出し、トーカを連れて行こうと思った。
トーカはきっと多くの人の目に留まるだろう。

「今日はここから出られない、明日は展示会に出なきゃダメだよ」

そう言って私は自分の部屋に戻り、トーカはリビングで一人、無駄な努力をしていた。
彼女の努力もむなしく、どうせ出られないのだから、展示品にされる運命を受け入れるしかないのだ。

翌朝、ビーカーの中で静かに指を動かすことなく、ただそこに留まるトーカを見た。
どうやら、昨日の一夜で、ビーカーから出られないことをよく理解したようで、無駄なことはせず、その場で静かに休んでいたようだ。

「昨日出られなかったんだから、展示品にされるんだろうけど、いい感じにするから安心しろ」

トーカを覆っていたカバーを外し、再びプレゼント用の箱に戻して、マイクのスタジオに持っていった。

私は昨日マイクに、今度の剥製展に出品するトーカを琥珀の標本にするつもりだと告げており、マイクは私のアイデアに感銘を受けたようだ。

「完璧な琥珀色の標本を提供する！」

そんなことを言っていた、マイクが持ってきたのは、今のトーカより大きく、全部入りそうな金属製のボールだった。
マイクはボールを半分に割って、用意しておいたまだ熱い濃いロジン液を取り出し、ボールの底の方から呼吸用のチューブを繋いだ。
半球に少しずつ注ぎ、半球の半分より下くらいになったところで、ギフトボックスからトーカを取り出してチューブにバルブを繋ぐと半球の中に入れた。

トーカはやや熱めのロジン液に驚いたのか、虫の足を不規則にくねらせ、逃げ出そうとする。しかし私には、琥珀になろうとする小さな虫の最後のあがきにも見え、トーカのもがいている姿がより本物の琥珀らしく感じられた。

マイクは、トカールの苦戦をものともせず、ロジン液を流し込むと、すぐにトカールの体にかかってしまった。そして、もう一方の半球を被せて固定すると、上の穴からロジン液を入れ、トーカは金属球の中で立派な琥珀の標本となったのだ。

私は友人のハーバー氏にそのことを話すと、彼は大笑いしながら、この件に興味を持ち、トーカと一緒に展覧会に同行することを表明した。
ハーバー氏は非常に博識であり、この100万年前の琥珀標本の中に、現在のロシア付近に生息していた無脊椎動物トガ虫が入っていて、その食べ物や習性、天敵など、簡単な説明をすぐに出してきたのだ。

話をするうちに時間が経ち、そろそろロジンも固まってきた頃だったので、マイクは立ち上がって金属球の包みを解くと、中に入っていた美しい琥珀色の標本が現れた。

夕日に照らされた金色の琥珀色の標本は、非常に美しく見えた。ハーパー氏は、虫に変装したトーカの体や虫の足に変装した指を興奮気味に観察しており、こう宣言した。

「これはきっとナンバーワンの展示品になるだろう」

私たちが外で楽しくおしゃべりをしている間、トカは家の中ではあまり楽しくないだろう。
触手がロジンで固められているため、ことごとく電流に耐えているのだが、体もロジンで固められているため、耐えることしか許されていないのだ。
琥珀色の標本をケースに詰めた。耐衝撃スポンジの中、樹脂の中でもがきながら固まった虫の姿を見て、誰がこの中に少女がいると思っただろうか。

ハーバー氏と私は、琥珀を入れた箱を持って展示会場に向かった。私たちは出展者として早めに到着していたため、少し空いていた。

私はトガ虫の琥珀標本を耐衝撃スポンジから取り出して展示棚に置き、その間にハーバー氏が彼女の簡単な説明をプロフィールボードに書き込んだ。

展示会場は、出展者とスタッフでほぼ埋まってしまったため、かなり空いていて、私とハーバー氏は展示会場をぶらぶらと歩いた。会場には非常に興味深いものがいくつかあり、ハーバー氏も思わずコメントしていた。

まもなく9時になり、展覧会は開幕し、やや混雑してきた会場に人々が入ってくると、ある展示物についての会話が聞こえてくることも少なくない。
気がつくと、トガ虫の展示に人が密集しておりトーカがちっとも見えないほどの群衆が発生していた。今まで見たことのない先史時代の生物の琥珀標本に、みんな興味津々のようで、トガ虫のことを話す人がたくさんいて、今回の展示のナンバーワンになれると信じて疑わなかったほどだ。

そこで、ハーボーさんにトーカの世話をお願いして、ギャラリーを後にした。私は2日目、3日目は行かず、ハーボーさんだけ行きましたが、やはりトーカは両日とも一番人が集まっていた。

3日目の終わり頃、主催者から声をかけられ、私の展示物が一等賞であることを祝福され、1週間展示させてほしいと言われ、トーカに問題がないことを確認した後、展示した。

1週間後、私は展示会場に来て、トーカを持ち込んだ時と同じケースに入れ、マイクのスタジオに連れて行った。
マイクは、耐衝撃スポンジから琥珀色の標本を取り出し、固まったロジンを特殊な加熱方法で溶かし、中のトーカを取り出した。マイクは特殊なナイフでトーカの手を包んでいる足を切り開き、中に入っている細い指を丹念にマッサージをした。

しばらくして、トーカの体が入った平たい球体を切り開くと、中には三つ折りのタイツに包まれた少女が現れた。マイクはトーカに何か食べ物を与え、風呂に入れ、休養日を与えた。

しかし、ハロウィンの衣装がまだ完成していないことを考えると、あまり休みがないのだが、トーカにとって休みの日は貴重なものだった。

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